2015年も 指折り数えるほどになりました。
12月22日の「あったか 読書会」には新しいメンバーが参加され・・・
冬至の昼に ☀ あたたかい部屋で、
本の話はもちろんのこと、朗読あり、雑談ありの、ぜいたくな時間でした。 report:F.O
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● Oさん
◆『Arknoah 1 僕のつくった怪物』
乙一:著 集英社:刊
児童向けの長編ファンタジー小説。
父を亡くし、小学校ではいじめられている兄弟のアールとグレイ。
二人はひょんなことから、本の中の世界「アークノア」に迷い込んでしまう。
その世界では、自分の心の闇が「怪物」として実体化し、暴れまわっていた。
怪物を倒さなければ、もとの世界に帰れない。
二人は異世界の人々と旅をして、怪物退治の冒険にくり出していく。
主人公たちが旅をするうちに、それぞれの心が生み出した「怪物」の性質が
わかってくる。
兄、アールのつくった怪物は狡猾な蛇で、知恵をしぼって人々を苦しめる。
弟、グレイのつくった怪物は凶暴な大猿で、目につくものすべてを破壊する。
二人はどのような悩みを持っていて、どうしてそんな怪物が生まれたのか。
いじめられっこで、性格もわるく、パッとしない少年たちが、
自分と向き合って、心の闇を打ち倒すほどに成長していく。
そこに思わず応援したくなってしまうような、いじらしさを感じる。
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● Cさん
◆『半生の記』
藤沢 周平:著 文藝春秋:刊
時代小説で有名な小説家、藤沢周平の自叙伝。
郷里の山形について、家族のこと、戦争時代の思い出や、闘病記など。
この一冊で藤沢周平の半生をたどれる構成になっている。
Cさんは朗読教室に通っておられ、藤沢周平の作品を朗読したことも。
今回は、あったかるーむに置いてあった『半生の記』から、
藤沢周平の出生地、小金井村についての一部分を朗読していただいた。
藤沢周平が生まれた夜に大雪が降っており、隣家の産婆を呼んで
取り上げてもらったこと。
時代の流れにより小金井村も合併され、昭和33年に閉村式をとり行ったこと。
朗読会では、情景が思い浮かぶよう、ドラマのように読むというCさん。
静謐な文体とあいまって、朗読を聞いている時には
雪の情景が浮かぶようでした。
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● Oさん
◆『生きがいについて』
神谷 美恵子:著 みすず書房:刊
精神科医でありエッセイストでもある神谷美恵子の、思索を記した本。
Oさんがこの本を読んだのはずっと前で、「神谷美恵子をはじめて読むなら
これがいい」と勧められたという。
久しぶりに読み返してもまったく古びていない、深い思想が書かれている。
著者はクリスチャンで、あるとき教会にオルガンを弾きに行って、
ハンセン病患者と出会った。
そのとき「なぜ私ではなく、この人たちがこんな苦しみを受けるのか」
と感じたという。
この当時、ハンセン病患者は家族からも疎まれて
隔離施設にいることが普通だった。
ある患者は恨みを抱えていたが、また別の患者は心楽しく生きていた。
その違いは何であろうか、と、著者は思索する。
本書の序文にはこう書かれている。
「いったい私たちの毎日の生活を 生きるかいあるように 感じさせているものは何であろうか。ひとたび生きがいをうしなったら、どんなふうにして また
新しい生きがいを見いだすのだろうか」
突然に 何もかもを奪い去られるという経験は、誰にでも起こりうる。
近年の東日本大震災でも、そういう経験をされた方がたくさんいる。
何かを失っているが、何を失っているかも分からない。
そんなあいまいな「喪失の世界」である現代にも、
この本は指針となってくれる。
「生きがいを失いかけても 自分自身で また立ち直って生きる」
それは ときに迷いながら 自らの信じる道を貫いた
著者自身の生き方でもあろう。
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● Mさん
◆『火花』
又吉 直樹:著 文藝春秋:刊
Mさんは、第155回芥川賞をとった2作品を全文掲載した
『文藝春秋』2015年9月特別号を持っていらっしゃいました。
この『火花』は、作者初の中編小説。
奇抜な発想を持つお笑い芸人、神谷と、彼を先輩として慕う主人公、徳永。
彼らの芸人としての活動と、人生哲学について書かれている。
物語の展開として、徳永は芸人としての地位や収入を得ていくが、
先輩である神谷は世間と迎合できずに落ちぶれていく。
色々な確執がありながらも徳永はずっと神谷を慕い続けたが、
最後に、神谷が面白いと思っておこなった豊胸手術に苦言を呈する。
その一本芯の通った上下関係がおもしろい。
◆『スクラップ・アンド・ビルド』
羽田 圭介:著 文藝春秋:刊
『火花』と同時に芥川賞を受賞した、中編小説。
色々なところが衰えた祖父と、同居で介護する孫に焦点をあてた家族小説。
老いていく祖父の介護をすることで、主人公の孫は自分を見つめ直し、
最後には新たな人生を歩み始める。
本書で孫はよく祖父の面倒をみており、
祖父の具合が急変したときにも救急車を呼ばずに自分で病院に運んでいる。
そうした迅速な対応は、同居の中でもきちんと目を配っていなければできない。
書かれている家族のあり方が興味深い。
第155回芥川賞を受賞したこの二作品は、いずれも話題性に富み、
作者の二人もよくテレビに出演している。
その様子を見ていると、芥川賞もかつてのような「文学賞の権威」
ではなく、大衆受けして売上の伸びる話題作りの一つにも思える……
これも時代の流れかな、など話し合いました。
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年の瀬。
窓の外に広がる定禅寺通は「光のページェント」点灯の時間が近づいています。
皆さま、どうぞ良いお年をお迎えください。
2016年も、ごいっしょに 本の話に花を咲かせましょう!
次回→ と き: 1月26日(火)13:30~
ところ: あったかこころねっと
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ご参加お待ちいたします。