7月の「あったか読書会」から・・・7月21日


暑い日々が続き、定禅寺通りの緑もしおれています。

七月の読書会は冷房のきいた部屋で、のんびり語り合いました。


今回は、「本を読むことで慰められる」というお話が多かったように思います。

体調にも厳しい暑さが続きますので、体も心も読書で休めていきましょう。

                                   リポート F.O

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Oさん


 「 新世界より 」 貴志佑介 : 著  講談社文庫 : 刊


第29回(2008年)日本SF大賞 1位を受賞した、SFホラーの長編小説。


1000年後の日本、人口3000人ほどの集落で、人々は平和に暮らしていた。

町の周囲をかこむ注連縄は、害虫や疫病といった「穢れ」を阻んでいる。

住民は全員が「呪力」と呼ばれる念動力を身につけた、特殊な社会。

ある時、主人公はその社会のシステムを偶然知ってしまい、

大人たちに「処分」されそうになる。


主人公である少女の疑問や恐れを描くことで、徐々に世界設定が明かされる。

隠されている真実が明かされていくさまは、ホラー小説のようでもある。


作者は生命保険会社の勤務を経て作家になった人。

そのせいか人間の業や汚い部分を描くのが得意で、この作品も例に漏れない。

超能力を持った人間のつくる階層社会は一見平和だが、人々は

「仲間以外には何をしてもいい、殺しても平気」

という歪んだ価値観を持っている。


「とても面白いけれど、落ち込んでいる時には読めない」

と、紹介者のOさん。

ほかのメンバーも、思わずウンウンと頷き合いました。



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Tさん


◇ 「 夜は終わらない 」 星野智幸 : 著  講談社 : 刊



「千夜一夜物語」をモチーフにした長編小説。

主人公の女性は、男を夢中にさせては貢がせて、殺して捨てる悪女である。

彼女はターゲットの男性に「私が夢中になれるようなお話をしてよ」と言い、その話が面白くなければ殺す。面白ければ生かしてやる。

立場は男女逆転しているが、これは「千夜一夜物語」のシェヘラザードと

同じ役割だ。

自らの命を長らえるため王に物語を聞かせるシェヘラザードと、

殺されないために話をする男。


鬼気迫る展開で、男の話す物語の登場人物がまた別の話を語り出していく。

入れ子構造になっていく物語は次第に、目の前の女の心理状態や過去のことを

比喩的に表しはじめる。

複雑な構造とたくみな心理描写で、ラストへと誘導されてしまう。


とにかく心理描写が面白い。

女に貢がざるを得なかった男のさびしい気持ちなどが、丁寧に描かれている。

「まじめに働いて貯めた金を、なぜ、この女に貢いでいるのだろう……」

そう思いつつ、情を断ち切れない感じがリアル。


主人公の女性は、実際に起きた同様の事件をモデルにしていると思われる。

ノンフィクションを小説にするのは難しそうだ、と紹介者のTさん。

事件が起きればみなルポルタージュを読む。

そのモチーフをあえて小説で書こうとするところがすごい。



◇ 「 ツナグ 」 辻村深月 : 著  新潮文庫 : 刊


ファンタジーふうの長編小説。1話完結のエピソードが5つ入っている。


死者と生者を仲介し、一夜かぎりの再会をかなえてくれる使者、「ツナグ」。死者にとっても生者にとっても一生に一度きりのチャンス。

それぞれの想いを抱えて、言えなかったことを言い、

また聞けなかったことを聞いたりする。


作中、あるOLがアイドルに会いたいと希望する。

色んな人から会いたいと言われているだろうから、

ただのファンである自分に一度きりのチャンスを使ってくれるはずがない……

そう思っているが、実は、再会を願っているのはそのOLだけだった。

生前は多くの人から慕われていたアイドルが

死後には望まれなくなったことに、OLは複雑な思いを抱く。


大事な方を亡くされた人は、「もう一度あのひとに会いたいな」と思う。

この小説を読んでいると、そうした気持ちも慰められる気がします。


 

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Oさん


◇ 「 院長の恋 」 佐藤愛子 : 著  文春文庫 : 刊


中高年、老人が主役の、ユーモア短編小説集。

表題作は、52歳の病院長が若い恋人に振り回されて変になっていく姿を、

秘書の目線から描いている。


紹介者Oさんのお気に入りは「沢村校長の晩年」という短編。

こんな話である。

定年退職した沢村校長が、一年半の間ひとり暮らしをすることになった。

お手伝いの女性を雇うのだが、そのお手伝いさん、ものすごくうっとうしい。

親切すぎてうるさいのだ。

たとえば「先生、先生、うぐいすが鳴きましたよ」と報告してくれるのだが、

お手伝いさんの声がうるさくてかんじんの鳥の声は聞こえない。

たとえばお手伝いさんは沢村校長に、体にいいものを食べさせたいのだが、

校長はその食べ物を犬にやる。

そして「そうか、犬もこれは嫌いか」などと言う。

 

毒の含まれるそのやりとりにユーモアがあふれていて、とても面白い。

リアルなおかしみがある。


作者は大正12年生まれ。夫の会社が倒産したり、その借金を背負ったりと、

苦労の多い人生を送ってきた。

この本の刊行時には85歳だったが、気力に満ちた文章だ。

そして今も、味わい深くておもしろい文章を生み出している。



◇ 「 愛する―瞑想への道 」 ウィリアム・ジョンストン : 著  

巽豊彦 : 訳  南窓社 : 刊


「愛」や「祈り」について著者の考えを綴る、指南書的な本。

架空の人物、トマスにあてた形で書かれている。

20章立てで、1つの章は10ページから15ページほどの長さだ。

それぞれに「愛にひたる」「祈りとは」「苦しみの祈り」といった

テーマが設定されている。

著者はキリスト教の神父。


紹介者のOさんは、この本を手元に置いておいて、

たまに手に取ってパッと開いたところを読むそうです。

どこを読んでも、そのときそのときで思うところがある。

「愛」そして「自分を見つめる」ことを全体のテーマにすえたこの本は、

まさにOさんの座右の書です。


 

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Iさん


◇ 「 なつかしい時間 」 長田弘 : 著  岩波新書 : 刊


NHKのテレビニュース解説番組「視点・論点」で語られたものを、

文章化した本。著者の詩と、考えが記されている。

 

変わりつつある現実の社会や、私たちをとりまく環境などについて、

おだやかな言葉でわかりやすく語られている。

今年の5月に亡くなられた著者の、おそらくは遺作となる。


Iさんが、このような部分を紹介してくれました。


「たくみな」、という言葉があります。

手際よくすぐれているさま、を言う言葉です。手を用いて上手で見事なのが

「たくみ」です。

 

 よい言葉である「たくみ」が「手」ではなく、『言葉』に結びつくと、一転  よくない意味になる。人が人をだます事件があると、「言葉たくみに」おびきだす、売りつける、だます、という表現になってしまいます。」


同じ言葉でも、結びつくものによって意味が変わる。

そうした視点の切りかえが趣深く、読んでいる人に

何かしらの「気づき」をもたらしてくれる。


ちかごろ忙しいIさんは、この本を持ち歩いているそうです。

たまにパッと開いたところを読むけれど、

そのときそのときで感じることがある。

先述のOさんと同じく、この本はIさんにとっての座右の書といえそうです。



 次回は ⇒ 8月18日(火)13:30~

       「あったかるーむ」にて!