8月「あったか読書会」スペシャル!より

 

8月の「あったか読書会」は「スペシャル」 でした!

 

仙台在住の作家、Mさんがご参加くださり、

作家ならではのお話をたくさんしてくださいました。

本の紹介のあとに、その内容をまとめています。

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今回 初めて読書会に参加されたN.Iさんと一緒に

楽しく贅沢な時間を過ごしました。

                    report:o.F

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N.Iさん

 

◎「きりこについて」 西 加奈子:著 角川書店:刊

   

きりこはぶすである。

という一文から始まる長編小説。きりこという女の子が大人になるまでを描く。

 

きりこは、美男美女の両親からお姫様のようにかわいがられて育ったため、

自分はかわいいと信じていた。

しかしある日、周りの子どもたちは気づいてしまった。

「お姫様のように振舞っているが、きりこはぶすだ」ということに。

それからきりこは友達から遠巻きにされ、十代をひきこもって過ごす。

拾った黒猫と暮らすうちに励まされ、やがてきりこは外に出る決心をする。

 

人間には外見と中身があって、その両方を自分で磨くことが大事だという話。

「人がどう思おうと、自分を一番認めて愛せるのは他ならぬ自分自身なのだ」

この考え方が、Iさんが本書を大好きな理由だという。

 

ストーリーが猫の視点から語られたり、関西弁で進むなど、軽妙で読みやすい。

じっくり読むと考えさせられる部分が多いのも、また味わい深い。

 

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I.Eさん

 

◎ 「老人と海」  ヘミングウェイ:著

 

ヘミングウェイがノーベル賞を受賞する契機となった小説。

 

キューバの老漁夫が、不漁の海にたった一人小舟で漕ぎだし、

わずかな餌にかかったカジキマグロを三日間の死闘のすえ釣り上げる。

積みきれないほど巨大なカジキを舟にくくりつけて港を目指すのだが、

港につくまでにカジキはサメの群れに食い尽くされてしまう。

 

紹介者のIさんは、この老漁夫に共感するところがあるそうです。

Iさんが子どもの頃、釣り好きのお父さんと海によく行っていました。

そして釣り場に向かう途中に、船から岩場に降ろされました。

船長さんが、岩にくっついたアワビをその場で取って

「これを食べて待っていて」とIさんに渡してくれました。

Iさんは岩に座り、アワビを食べて、海を見ながら、

お父さんの船が戻るのをじっと待っていたそうです。

大きな獲物を待ちながら海に漕ぎ出す漁夫と、通じるものがありますね。

 

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Sさん

 

◎ 「よくわかる般若心経 二七六字の本当の意味が見えてくる」 

   岡野 守也:著 PHP文庫:刊

 

般若心経を分かりやすく解説した本。

仏教の真髄である「空」と「無」の思想を、二六七字で表したのが般若心経だ。

本書では「空」を中心に、仏教の考え方から心の整え方までが書かれている。

 

仏教では善も悪も混ざり合っていて、何事も分け隔てをしない。

善と悪、神と悪魔の二項対立を説く宗教と対極の考え方だ。

 

紹介者のSさんは、お寺の座禅会に参加しているそうです。

座禅を続けていると足がしびれなくなり、雑念が浮かんでくると

おなかに力を入れて意識を体の方に引き戻す。

そうしていると、ある時ふと、いい瞬間が訪れるといいます。

体感しているので言葉にはしづらいそうですが、話を聞いている私たちも

仏教の世界を垣間見た思いになりました。

 

渓流釣りが趣味のMさんは、川の流れと仏教の教えは似ていると言います。

川には絶え間なく水が流れ、仏教は「全ては流れ去っていく」と説いています。

透き通った川の流れに手足を差し入れると、えもいわれぬ感触がします。

それもまた、座禅で感じる「いい瞬間」に近いものなのかもしれません。

 

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Oさん

 ◎ 「猫弁と透明人間」  大山 淳子:著 講談社:刊

 

長編小説。

百瀬太郎は天才弁護士で、超がつくほどお人よし。

ペット訴訟で放り出された猫を事務所で飼っているから、あだ名が「猫弁」。

ある日、猫弁のもとに、透明人間を名乗る人物から依頼のメールが届く。

動物、人間、かわいい婚約者……彼らを幸せにするため、猫弁が奮闘する。

 

TBSドラマ原作大賞を受賞した作品の、シリーズ二作目。

映像化を想定されて書かれているので、様々なところがそれらしい。

例えば登場人物に「法律王子」なる人物が出てくる。ドラマっぽい。

 

ミステリー仕立てで続きが気になって読み進めると、

キャラクターの優しさやコミカルな感じにほっとする。と紹介者のOさん。

肩の力が抜けそうな小説です。

 

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Mさんのお話

作家のMさんが語ってくださったことを簡単にまとめます。

 

◇ プロの作家は、「何を書こうか」と考えない

小説の着想は何から得るか、という質問がありました。

新聞の三面小説を読んでいたり、映画を観ていると、ふと想像が広がって

「こういうものを書こう」とイメージが湧いてくるそうです。

わざわざ「何を書こうか」と悩む作家はいないのではないか、とのこと。

 

◇ どこまで書いたら納得する?

500枚の小説を書こうと思ったら、まず550枚、つまり一割ほど長く書くのが

こつだそうです。

そこから文章を削り、エピソードを入れ替え、全体を3,4回書き直します。

するとストーリーに起伏が出たり、どうすれば面白くなるかが見えてきます。

 

実際に、原稿をどう削るかを見せていただきました。

事件が起きる直前は、日常会話を減らし、緊迫した雰囲気を出すこと。

ラストの場面では会話のシーンを残し、登場人物がどうなったかを書くことで

物語の余韻を残すこと。

小説を読んでいるだけでは気づけないことも教えていただきました。

 

◇ 小説家の読み方

今回の読書会で紹介された「きりこについて」は、猫の視点で進む物語。

Mさんは「まずどの視点で始まるのか?」を気にされました。

先にご紹介した通り「きりこはぶすである。」から始まり、しばらくは

猫に出会う前、きりこの生い立ちが語られます。

例えばこれが「私はぶすだ。」という冒頭なら印象は大きく変わります。

 

テーマやストーリー性も大事ですが、同じくらい、組み立て方が重要です。

そのお話をどういう順番で、どう組み立てて読ませるのか。

作家はそういう視点で本を読むそうです。

 

そうした構成が素晴らしい本として、宮部みゆきの「火車」が挙げられました。

Mさんおすすめの、一度は読んでほしい小説だそうです。

 

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 ◆ 次回は⇒ 9月9日(火)13:30~ です

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◆◆ 期日は「未定」ですが。。。

次回「あったか読書会・スペシャル」の課題図書は

 

 「シェル・コレクター」  

   アンソニー・ドーア著 新潮クレスト・ブックス刊

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暑い日が続きます。くれぐれもご無理なさいませんように。。。