6月の「あったか読書会」より

 

雨降りが続いて、定禅寺通の木々もうれしそうな日々です。

読書会の日は珍しく晴れ間があり、気持ちのいい風が吹くなか

集まった女子数人で本の話をしました。

なんとも贅沢な時間になりました。                                

                                                                                            

                   report:o.F
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Sさん


「豆の上で眠る」 湊かなえ:著 新潮社:刊

   

長編小説。幼いころ失踪して2年後に帰ってきた姉。

それから13年が過ぎ、大学生になった今でも、妹は違和感を拭えずにいた。

戻ってきた姉は、本当に同じ姉なのか?

家族の葛藤、謎、疑念を描く。

 

もともとSさんは作者の「告白」を読んで、心理描写の上手い作家だと思っていた。

まだ全部は読んでいないけれど、続きの気になるお話とのこと。

本の表紙は、おもちゃの指輪が二個置かれた写真。

その写真も作中の「子どもの頃の思い出」をモチーフにしているのか、

気になるところです。

 

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Oさん

 

「冬虫夏草」 梨木香歩:著 新潮社:刊

 

草木の名前をタイトルにした掌編を連ねた、長編小説。

自然の様子や人々の営みを清冽な筆致で描く。

主人公の綿貫征四郎は駆け出しの小説家。亡き友の生家に住んでいたが、

半年前にいなくなった愛犬ゴロ―の目撃情報をたよりに鈴鹿の山へ旅に出る。

道中出会うのは、冬なら冬を、夏なら夏を真摯に生き抜こうとする人々だった。

 

「河童」や「イワナの夫婦が営む宿」など不思議なものもよく出てくるが、

それらも主人公の綿貫は「そういうものか」と鷹揚に受け止める。

その奇妙な懐の深さもおもしろい。

 

 

「ユリゴコロ」 沼田まほかる:著 双葉文庫:刊

 

長編小説。主人公が実家で見つけた「ユリゴコロ」と題されたノートは、

殺人に憑りつかれた人間の生々しい手記だった。

 

主人公は二ヶ月前まで幸福の只中にいたが、物語は不幸のどん底から始まる。

婚約者が失踪し、父が末期癌と診断され、母が交通事故で亡くなった。

暗澹たる気持ちで実家に戻って見つけた、ユリゴコロと題された殺人の告白文。

その謎に向き合い、主人公は追いつめられていく。が、読後感は意外に爽やか。

文章のセンスもよく、導入の掴みからラストまで一気に読める面白さ。

 

ただ、Oさんが家族や友人に本をすすめた際にはこんな感想もありました。

「面白いけど、殺人の部分が生々しくてつらかった」……苦手な人はお気をつけを。

 

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Mさん

 

「オール讀物 臨時増刊号 2014年03月号」 文藝春秋:刊

 

第150回直木賞の受賞をメインにした特集号。

姫野カオルコの小説(受賞作「昭和の犬」など)を浅田次郎が絶賛している。

 

忙しいMさんは、電車で移動中にこうした雑誌を読むという。

着くころには読み終えられて手軽だし、近頃はどのような人がどんな文章を

書いているのか確かめられるのも良い。

小説を書いているMさんから見ても、「賞を取る人の文章は違う」と感じる。

 

そこからメンバーは、文章は普段から書いていないと書き方や漢字を忘れていく

という話にシフト。

読む力も、アンテナを張って新しいものを探して読んでいかないと衰えていくのかも

しれません……。

 

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Iさん

 

「智恵子抄」 高村光太郎:著

 

 

福島県の二本松にある「智恵子記念館」をおとずれたIさん。

(詩人、高村光太郎の妻、智恵子の生家です)

 

その話とあわせて、高村光太郎の詩をいくつか紹介してくださいました。

特にIさんがお気に入りなのは「あなたはだんだんきれいになる」という詩。

 

をんなが附属品をだんだん棄てると

どうしてこんなにきれいになるのか。

年で洗はれたあなたのからだは

無辺際を飛ぶ天の金属。

見えも外聞もてんで歯のたたない

中身ばかりの清冽な生きものが

生きて動いてさつさつと意慾する。

をんながをんなを取りもどすのは

かうした世紀の修行によるのか。

あなたが黙つて立つてゐると

まことに神の造りしものだ。

時時内心おどろくほど

あなたはだんだんきれいになる。

 

この短い詩に、真の美しさは内面にあるという想いがこめられています。

物事の神髄を深くとらえる人だからこその詩ですね、とはIさんの談。

十和田湖畔に立つ「乙女の像」は、高村光太郎の最後の作品。

「智恵子をつくります」と、あの像をつくったそうです。

 

 ほかにも、「レモン哀歌」の冒頭「そんなにもあなたはレモンを待ってゐた」

などのことを話しました。

もともとレモンは明治時代に渡来してきたもので、薬などに用いられる

高価な果物でした。

大卒初任給が1万円以下の時代に、なんと1個200円もの値段がついたといいます。

「そんなにも」待っていた智恵子の心象が偲ばれるというものです。

 

当時の文化や、智恵子の生涯をひもときながら読む詩には

また格別の味わいがありました。

 

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 次回は⇒  7月8日(火)13:30~